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千葉地方裁判所 昭和31年(ワ)136号 判決

事実

原告関東いすず自動車株式会社は自動車の販売等を業とする会社であるが、昭和二十九年十一月二十日、訴外伊東正富に対し、本件貨物自動車を代金七十七万五千円で売り渡し、(代金の内金三十万円は即日払、残金四十七万五千円は昭和三十年二月十七日から同年十月十日まで月賦を以て支払う約)、その頃その引渡をなし、昭和三十年一月十八日その所有権移転の登録を了したのであるが、右訴外人は昭和三十一年一月十二日までに合計金四十三万円の支払をなしたのみで、その余の支払をなさないでいるので、原告は同訴外人に対し残代金三十四万五千円及びこれに対する昭和三十一年一月十三日以降の年六分の割合による損害金債権を有するところ、右訴外人は、債権者を害することを知りながら昭和三十一年四月十二日、被告佐々木三郎との間において、被告を債権者とする、弁済期昭和三十一年九月三十日、利息年一割五分の約定の、元金六十万円の債権を担保するため、右訴外人の唯一の財産である本件自動車に第一順位の抵当権を設定する旨の契約を締結し、これに基き、千葉県陸運事務所受附を以てその設定の登録を了した。よつて原告は、右訴外人と被告との間においてなされた、前記抵当権設定契約の取消を求めると共に、被告に対し、前記抵当権設定登録の抹消登録手続を求めると述べ、仮りに、以上の主張が理由がないとすれば、被告は、前記抵当権の被担保債権の債権者ではないにも拘らず、前記抵当権設定登録において、その債権者として、右抵当権の設定を受けたように登録されているが、これは、抵当権者でない者が抵当権者として登録されていることになるから、その登録は無効というべきである。従つて、所有権者である前記訴外人は、被告に対し、その登録の抹消登録手続を求め得る権利を有するものであるところ、右訴外人は、その権利を行使しないでいるので、原告は、前記債権保全のため、右訴外人に代位して、被告に対し、右登録の抹消登録手続を求める、と主張した。

被告佐々木三郎は答弁として、被告が訴外伊東正富と、本件自動車について第一順位の抵当権を設定する旨の契約を締結し、これに基いてその設定の登録を了したことは認めるが、右訴外人が、債権者を害することを知りながら右契約を締結したこと、並に右自動車が、右契約締結当時における右訴外人の唯一の財産であつたことは知らない。仮りに、右訴外人が、債権者を害することを知りながら右契約を締結したものであるとしても、被告は、当時その事実を知らなかつたものであるから、原告は右契約の取消を求めることはできないと、抗争した。

理由

訴外伊東正富が、原告主張の日に、被告と、右訴外人の所有にかかる原告主張の自動車に対し、原告主張の債権を被担保債権として、その主張の抵当権を設定する旨の契約を締結し、これに基いてその主張の登録を了したことは当事者間に争のないところであるが、右訴外人が、債権者を害することを知りながら右契約を締結し、その登録を了したという点については、これを認めるに足りる証拠がないので、右事実はこれを認めるに由ないところである。而して、原告の主たる請求原因に基く請求は、右事実のあることを前提とするものであるが、その事実のあることを認め得ないこと右のとおりであるから、主たる請求原因に基く原告の本訴請求は失当である。

次に、原告の予備的請求原因に基く請求について判断するのに、証拠を綜合すると、前記訴外人は、昭和三十一年四月十二日当時、被告がその代表取締役をしていた訴外株式会社佐々木モーターズに対し、修理代金、部品代金等合計金六十万円位の債務を負担していたのであるが、右訴外会社の請求によつて、右債務の履行を担保するため、右同日、右訴外人の所有にかかる本件自動車に原告主張の抵当権を設定する旨の契約を締結し、即日、その設定登録の手続をなすこととなつたのであるが、その手続をなすについて要する右訴外会社の登記簿抄本の交付を受けるいとまがなかつたため、その代表取締役である被告個人を登録名義人(抵当権者)として、その登録を了することとし、これによつて右同日、被告個人を登録名義人として、その登録を了したこと、そしてその登録が原告主張の登録であることが認められる。

右認定の事実によると、右登録によつて登録された抵当権は、前記訴外会社がその権利者であつて、その名義人として登録された被告はその権利者でないことが明白であるから、右登録においては、抵当権者でない者が抵当権者として登録されているといわなければならない。そうして、そのような登録は無効であると解するのが相当であると認められるので、右訴外人は、その所有権に基いて、被告に対し、右登録の抹消登録手続をなすべきことを求める権利を有するわけである。それにも拘らず、同訴外人がその権利を行使しないでいることは、弁論の全趣旨に徴して明白であるから、右訴外に対し前記債権を有する原告は、その債権保全のため、同訴外人に代位して右権利を行使することができるものである。

よつて、右訴外人に代位して、被告に対し、右登録の抹消登録手続をなすべきことを求める原告の請求は正当であるとしてこれを認容した。

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